「他社が上げるから、うちも上げる」の限界――賃上げドミノ時代に、中小企業が本当に見直すべき『採用と評価のモノサシ』

初任給の引き上げ、最低賃金の高騰、そして物価高に伴う継続的な賃上げ要求――。

今、労働市場は、かつてない変化の時代を迎えています。

大手企業が大胆な賃上げを発表する中、「優秀な人材を採るためには、うちも基本給を上げなければならないのか……」と頭を悩ませている経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。しかし、外部の市場に合わせて無理に初任給や採用時の条件を引き上げると、今度は「なぜ新しく入った人の方が、ずっと支えてくれている既存社員より給与が高いのか」という、社内の歪み(ひずみ)が生じてしまいます。

さらに、「年収の壁」緩和に向けた制度見直しが進む今、パート・アルバイトや扶養内労働者の就労インセンティブをどう再設計するかという難題も重なっています。

周囲の動きに振り回され、場当たり的な給与調整を繰り返す前に、一度立ち止まって「自社の仕組み」そのものを見直してみませんか?


1.外部市場に合わせるほど、社内がギクシャクするジレンマ

採用力を高めるために「市場の相場」に給与を合わせる。一見、正しい戦略のように思えます。しかし、ここに大きな落とし穴があります。

特にリソースに限りのある中小企業において、入り口(採用時)の条件だけを無理に引き上げると、既存社員との給与格差という深刻な問題が発生します。

「社歴が長く、業務を熟知している自分よりも、入社したばかりの新人の方が基本給が高い」

こうした状態が放置されれば、組織を支えてきたコア人材のモチベーションは低下し、最悪のケースでは離職に繋がります。採用のために条件を上げた結果、社内の優秀な人材が流出してしまっては本末転倒です。今必要なのは、単なる給与水準の引き上げではなく、「自社としての一貫したモノサシ」を整えることです。


2.「年収の壁」緩和の波。制度が変わっても、働き方が変わらない理由

配偶者控除や社会保険の扶養基準など、いわゆる「年収の壁」を緩和する動きが国を挙げて進められています。これにより、「これ以上働くと手取りが減るからシフトを抑える」という制限は理屈のうえでは解消されつつあります。

しかし、制度が変わったからといって、従業員がすぐに「じゃあ、もっと長い時間働きます」となるわけではありません。

なぜなら、企業側の「評価の仕組み」や「役割の定義」が、短時間労働を前提とした古い状態のまま止まっていることが多いからです。時間の壁が取り払われた今、本当に考えなければならないのは、「時間を延ばしてもらうこと」ではなく、「延びた時間で、どのような役割を担ってもらうか」というインセンティブの再設計です。ここが曖昧なままでは、どれだけ制度が変わっても現場の人手不足は解消しません。


3.採用・賃上げ・育成を「バラバラ」に議論するリスク

多くの企業では、以下のような問題がそれぞれの部署やタイミングで、個別に議論されています。

  • 採用担当:「応募が来ないから、初任給のベースを上げたい」
  • 労務担当:「法改正と物価高に合わせて、全体の賃上げ率をどうするか」
  • 現場の長:「もっと主体的に動いて、生産性を上げてくれる人が欲しい」

これらをバラバラに解決しようとするから、どこかを優先すれば、別のどこかに歪みが生じる、という矛盾が生じます。

お金(賃金)の議論と、組織のあり方(育成や評価)の議論は、本来切り離せないものです。いくら給与を上げても、社内の評価基準が不透明であれば不満は溜まりますし、逆に給与が市場平均並みであっても、「自分の成長や貢献が正当に認められている」という実感が持てれば、人は定着します。「いくら払うか」の前に、「何を評価して、どうなってもらうために払うのか」という一貫したストーリーが、今の組織には求められています。

人手不足が深刻化すると、どうしても「今いる穴を埋めること」に必死になってしまいます。とにかく1人確保しなければ現場が回らない、という焦りは痛いほど分かります。

しかし、その焦りから「とにかく誰でもいいから来てほしい」という空気で採用活動を行うと、本来会社が目指すべき方向性や、求める人物像の軸がブレてしまいます。頭の中が整理されないまま、ただ「イベント」のように採用活動を繰り返していても、運良く入社した人と現場との間で必ずミスマッチが起き、早期離職という最も避けたい結果を招くことになります。

数字の枠を埋める前に、「なぜ私たちは人を採用し、その人とどんな未来を作りたいのか」という一歩引いた問い直しが必要です。


4.本当の課題は「原資のなさ」ではなく、「基準のなさ」

「うちは中小企業だから、大手のように賃上げする原資がない。だから採用も上手くいかないんだ」

そう諦めてしまうのは、まだ早いです。 問題の本質は、原資の額そのものよりも、「自社の基準(モノサシ)が社内外に向けて言語化されていないこと」にあります。

経営者は、次の3つの問いに明確に答えられる状態を目指すべきでしょう。

  • なぜ、この初任給(あるいは時給)なのか
  • どんな成果や行動が、既存社員の昇給に繋がるのか
  • 制限なく働けるようになったパート社員に、どんな期待をしているのか

これらを経営層から現場まで、全員が納得できる言葉で整理できていれば、市場環境の変化に過度に振り回されることはなくなります。頭の中にある「自社の強み」や「人に対する評価の基準」を、一度クリアに整理してみる。これこそが、構造的な人手不足から抜け出す唯一のスタートラインです。


まとめ

激変する外部市場を無視することはできません。しかし、外の数字(他社の初任給や賃上げ率)ばかりを追いかけていては、社内の仕組みは歪む一方です。

まずは、自社が今置かれている現状と、これから目指したい組織の姿を言葉にして、「自社独自のモノサシ」を整えてみませんか?

「既存社員との給与バランスをどう調整すべきか、頭が痛い」
「年収の壁が緩和されたのに、扶養内のスタッフの動きが変わらない」

そんな違和感や悩みを抱えているなら、まずはその背景にある「組織の絡まり」を紐解く必要があります。AMDEAでは、単なる求人テクニックの提供ではなく、貴社がこの賃上げ時代を生き抜くための「考え方の整理」から丁寧にお手伝いします。

「うちの会社、このままで大丈夫かな……?」と少しでも不安を感じたら、まずは無料相談で、自社の現在地を言葉にすることから始めてみましょう。

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